ふくらはぎは第二の心臓だ

普段あまり気にとめないふくらはぎ。専門家の間では「第二の心臓」と呼ばれていることをご存知だろうか。足腰に滞りやすい血液をポンプのように心臓へ送り返す働きがある。筋肉が良く動くと全身の血行が良くなるという。

「ずいぶん硬いですね。日ごろ歩いていないでしょう。」

石川・クリニック(東京・港)の石川洋一医師は40代男性Aさんのふくらはぎを触りながらこのままだと健康を損なうと諭す。

石川医師がふくらはぎに着目したのは約30年前。腕の点滴が入りにくい患者のふくらはぎが変に冷たかった。マッサージしたら点滴が入りやすくなった。同じ経験が何度もあり、上半身の血行を左右していることに気づいた。

心臓から出た血液は全身に行き渡り、静脈を通って戻る。体中に新鮮な血液を届けるため、循環は活発なほど良い。だが足の静脈の血液を重力に逆らって心臓まで送るのは容易でない。静脈内には2~5センチメートルおきに弁がある。下から上がってくる血液は通すが、通り抜けた血液は通さない。逆流を防ぐためだ。

心臓の鼓動や呼吸に伴う体の動きだけでは、弁を押し広げて血液を送り出すには力不足。ふくらはぎや足の筋肉がポンプのように収縮し、血管を圧迫する作用が不可欠だ。これが第二の心臓と言われる理由だ。

ふくらはぎが硬くなったり、筋肉が衰えたりすると、血液がうまく心臓に戻らない恐れがある。足がむくむどころか体調が悪くなりかねない。石川医師によると、革袋に似た弾力のないふくらはぎの人は腎臓が弱く、硬く膨らんで熱いと血圧が高い。

石川医師は「ふくらはぎ療法」を提唱、マッサージで血液循環を改善することを呼びかけている。冷え性や肩こり、高血圧などの治療や予防に有効という。

エコノミークラス症候群とも関係

第二の心臓は、いわゆるエコノミークラス症候群とも関係がある。同症候群は長時間の飛行などで足の静脈に血栓ができるもので、血栓が肺や血管に詰まって死ぬ人もいる。医学博士の三浦靖彦航空医学研究センター研究・指導部部長は「狭いところに長時間座っていることでポンプ作用が弱まるのが一因」と分析する。

部長らはふくらはぎの上部の血液の流れを超音波で調べてみた。起立時は毎秒6.3センチメートルの速さで流れたが、座ると同4.4センチメートルに急減。座ったまま30分を過ぎると同3.1センチメートルになった。足の静脈に血液が滞ると血栓ができやすいと言う。

そこでアキレスけんの上やふくらはぎをもむと、再び血液の流れが回復した。航空各社は長いフライトでは軽いマッサージを対策メニューに加えている。

あべこべシューズ

ふくらはぎを鍛えるための商品もお目見えした。かかとよりもつま先が高い靴だ。つま先が四十度の角度で上を向き、履いてみるとかかとで立つ感じだ。室内で履き立って鍛える。わずか1~10分間だが、後ろに倒れまいと自然とふくらはぎの筋肉に力が入る。

「あべこべシューズ」と名づけたこの商品は研究開発ベンチャー、グローバルピープル社(東京都町田市)が考案。田中和則社長は「足の裏や背筋など日ごろ使っていない筋肉の働きを取り戻す」と語る。腰痛やひざの痛みに悩んでいた人にも好評という。お尻に重心がかかり姿勢を矯正しようとする無意識の力が身体の各部を緊張させるようだ。

器具を使わなくてもふくらはぎを鍛えられる。オリンピック選手の強化担当を務めた経験がある東京の大学の小林寛道教授は「ふくらはぎは健康のバロメーター。よく歩く人ほど発達している」と話す。歩くときはひざの後ろを伸ばす感覚で踏み出し、かかとから着地すると良いと言う。運動後は入浴時に軽くもむ。日ごろの手入れが大切だ。

日本経済新聞 2004年5月9日掲載

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