亀割峠

約1.5粁(キロメートル)の山道を昇ると峠に達し、この峠をまた1.5粁近く降って、やがて通学していた中学の校門をくぐる生活が5年間つづく

山の峠は亀割峠と云い、通学5ヶ年のあいだにはさまざまのドラマがあった
その多くはもう忘れてしまったが年齢(よわい)90を超えた今でもヒョイヒョイ憶い出すこともないではない

学校のある日は朝の7時前峠を越えた
峠に達すると朝の電柱に雀がとまっていてチュンチュン鳴いていた

峠路をわが越えくれば電柱に朝の雀は鳴きてありけり

この歌はぼくの作ではないらしい。中学の先生にほめられたこともあっていつしかぼくの作品のような気になった。ひょっとするとぼくの作かもしれないがその区別は今はハッキリしなくなっている

ぼくは点取り虫であったので峠路をたどり乍ら英語の単語を暗記した。それが里人の眼にとまって評判になったこともある

おかげで中学5年を終わると福岡の旧制高校に進み、ついで東京の大学に学び、その大学の教師もつとめた。
それだけでも亀割峠の恩は忘れられない。死ぬまでにぜひ訪ねてみたいがもう無理かも知れない

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